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本研究室の特色

吉岡研究室では、実験装置を手作りすることを大切にしています。それは、最高の性能は市販品では得がたく、また、研究参加者が実験装置の設計から運用方法までの詳細を、隅々まで理解することにつながるからです。このような取り組みは、学生さんが将来、自らの手で新しい概念や装置、製品を作り出すための基礎になると信じています。
 写真はレーザー光源および光の制御のための回路の製作例です。レーザーはフェムト秒モード同期レーザーや、単一縦モード半導体レーザーの製作を頻繁に行っています。回路は光検出器や高周波回路に加えて、制御回路や高圧電源をよく製作しています。低雑音動作の追求のためにアナログ回路を重視していますが、FPGA等のデジタル回路も適宜活用しています。


フェムト秒光周波数コム

フェムト秒モード同期レーザーの、繰り返し周波数とオフセット周波数という2つのパラメータを観測して精緻に制御すると、光の周波数が既知である大量の縦モードを用意できることになります。これを使うと、人類がつい最近まで正確には測定することができなかった光の周波数を、テーブルトップの実験で極めて正確に測定することができます。このアイデアはフェムト秒光周波数コム(Comb)と呼ばれ、これを実現した科学者にはノーベル賞が授与されました。フェムト秒光周波数コムは、光原子・イオン時計の正確な周波数測定を世界中で行うことを可能とすることにつながっており、50年間使われてきた1秒の定義さえも変えようとしています。
 一方で、制御されたフェムト秒光周波数コムは、時間領域で見ると、フェムト秒パルスが飛来するタイミングが極めて正確であり、さらに、フェムト秒パルス内の電磁波の形状が制御可能であることを意味しています。これは現在世の中で、いわゆる電波の時間波形を自在に制御できるように、それよりも何桁も周波数が高い光の時間波形を自在に制御できるようになったということです。このことを活用して、100アト秒を切るようなパルス幅のコヒーレント光を発生させることが可能となっており、人類は従来よりもさらに超高速の現象を見ることができるようになったわけです。
 吉岡研究室では、世界最高精度に安定化されたフェムト秒光周波数を実現しています。このような周波数領域、時間領域で究極的に制御された光である周波数コムをフル活用して、物質を従来になかったレベルで超精密に測定や制御を行うことが、本研究室が新しく目指そうとしている領域です。このような物質の計測を通じて、より広範な物理学一般に通じる問題を調べたり、物理学の長年の謎を解き明かしたり、未来の光技術の基盤形成の一助となるような技術を培うことが、本研究室が抱いている夢です。今後の進展にご期待ください。
 なお現在、東京大学大学院工学系研究科物理学専攻香取研究室との共同研究を行っています。また、繰り返し周波数を10 GHz程度に向上させ、固体・原子分光測定や天体観測に活用する取り組みを進めています。
 なお、当面固体レーザー(モード同期チタンサファイアレーザー)によるフェムト秒光周波数コムを活用していきますが、波長領域等の必要に応じて適宜、モード同期ファイバーレーザーを使用します。


励起子のボース・アインシュタイン凝縮

低温に冷却した半導体に光を吸収させると、励起された電子と、その抜け穴である正孔が、しばらくの間水素原子のように束縛した状態を作ります。これは励起子(exciton)と呼ばれています。励起子は偶数個のフェルミ粒子のペアであることから、ボース粒子としての性質を示すと考えられます。そのため、液体ヘリウム等を用いて系を低温に冷却し、レーザー光を使って大量にこの擬粒子を用意すると、ボース粒子の量子統計性の最たる現象であるボース・アインシュタイン凝縮(BEC)が起こると予言されました。50年以上前のことです。
 世界各地でBEC観測のための実験が進められてきましたが、なぜかその実験的証拠は見つかりませんでした。私達はその原因をつきとめるため、励起子の1s-2p遷移を観測して励起子の密度と温度を高感度かつ定量的に評価する方法を開発しました(励起子Lyman分光法)。その結果、いくら強いレーザー光をつぎ込んでも、実は励起子の密度が十分に高くなる前に頭打ちになるという、想定外の事実をつきとめました。
 それでもBECを実現するためには、物質の波としての性質をより顕在化させるために温度を下げるしかなく、サブケルビン領域の実験に挑戦しています。ヘリウム3冷凍機を用いた冷却では、3次元的にトラップした温度800 mKの励起子に対してBEC条件を満たすことに初めて成功し、BEC転移の間接的証拠である「緩和爆発」を観測しました
 その後、希釈冷凍機による冷却や、励起子の冷却効率を上げる方法の発見を通じて、現在、世界最低温度である100 mKの励起子温度を実現しています。その上で、世界初の励起子の吸収イメージング法の開発を行い、いよいよ安定な凝縮体を直接観測する実験を進めています。
 なお本研究は現在、理学系研究科物理学専攻 五神・湯本・吉岡研究室と共同で進められています。


ポジトロニウムのレーザー冷却とボース・アインシュタイン凝縮

準備中


角度分解光電子分光による光励起状態の解明

準備中


高次高調波発生と超高速真空紫外分光

準備中